幼い頃、この痣が浮き出てから―――世界は変わった 大人たちは、誰よりも自分を大切に扱うようになった
皆が自分を一族の救世主だとはやし立てるのを、幼い自分はまるで関係のないことのように思っていた
ある日急に、お前が救世主なんだと言われても「あぁそうか」などと納得する訳がない
それでも、自分は救世主なのだと何度も何度も教え込まれた この時には、紅芋様は勿論のこと、その他に痣をもつ者は生まれていなかった
そうであるから、他の一族の者もこぞって痣を見にやってきた なんと、2世紀振りの「救世主」なのである 一族こぞって、祭りのごとき賑わいをみせた
「私は、何も変わってなどいないのに……皆が騒いでいる」
自分は、幼い子どもで何の力もない それなのに、皆は自分を「救世主」などと呼んで重過ぎるほどの期待をかけているのである
「私は………こんな痣なければよかった」
そんな風に打ち明けることが出来たのは、この幼馴染だけである そう、今だってじっと自分の言葉を聞いてくれる そして震える手を、そっと握ってくれた
「私は、お前とずっと一緒にいたいだけなのに」
泣きそうな声で、どうしょうもないような声を上げて自分よりも小柄な幼馴染に身体をくっつけた そんな彼に戸惑うようにしてから、それでも幼馴染は彼を片手でぎゅっと抱きしめて、もう片方の手で彼の頭を優しく撫でてくれる
「………ずっと一緒です、じゃが芋様」
「そんな呼び方……私は、そんな名前欲しくない」
自分は、そんな名前なんかではない そんなの…自分じゃない
「でも……これは、命令です」
「お前だけには、そんな名前で呼ばれたくない……お願いだから」
お願いだから、君だけは変わらないで 君だけは、私を分かって欲しい それだけは、譲れないと切実に思った
私は、皆の救世主になどなりたくはなかったけれど、君だけの救世主にはなりたかった それで十分だったのに
額に浮き出た「jyagaimo」という痣が、私を一生縛りつけるのだと思っていた しかし、この痣は1週間後唐突に消える そして、その痣が再び浮き出ることは――――誰にもなかった