紅芋

面白可笑しく、時に切なく………
芋の頂点に立つ男 紅は、ピーマンの魔の手から世界を救うことが出来るのか!!笑

第十八話

2006-08-03
この痣が消えたことを、大人たちは認めたがらなかった 明らかな失望の目を私に向けながらも、目の前の希望が掻き消えたことが信じられなかったようだ…
彼らにどう思われても、平気だった 両親ですら、興味を引かなかった 父は分かりやすい失望を私に向け、母は絶望で震えていた それでも何も感じなかった
私にとってショックだったのは、唯一信頼する幼馴染みの反応だった
彼はきっと、私がジャガ芋から外れたことを喜んでくれると思っていた しかし、幼馴染みは私を避けた 私と目を合わせてもくれなくなった
幼馴染みは私が「ジャガ芋にはなりたくない」と言ったから、痣が消えてしまったのだと思っているようだった 私がジャガ芋となってから変わってしまった二人の関係は、元のように修復されることはおろか、痣があった頃よりも悪くなってしまった
そうして、2年の歳月が過ぎた頃 別の一族の中に、山芋が生まれた その存在が、また皆の希望となった
じゃが芋、山芋、薩摩芋、里芋 この4人が揃ったときにこそ、真の救世主「紅芋」が生まれいずるのである それこそが、皆の世界の希望なのである
私は、それを喜んだ 私ではない救世主は確かに存在し、きっと皆を導くだろう 自分にはできないことを彼は成し遂げてくれるだろうと、私は勝手に考えていた
山芋と呼ばれる彼が、自分と同じ年の少年などとは露とも考えていなかった 彼は、逃げたのだ じゃが芋という名の、重圧から……
Posted by yanyo at 00:32:17Comments(1)TrackBack(3) │過去

第十七話

2006-08-03
幼い頃、この痣が浮き出てから―――世界は変わった 大人たちは、誰よりも自分を大切に扱うようになった
皆が自分を一族の救世主だとはやし立てるのを、幼い自分はまるで関係のないことのように思っていた
ある日急に、お前が救世主なんだと言われても「あぁそうか」などと納得する訳がない
それでも、自分は救世主なのだと何度も何度も教え込まれた この時には、紅芋様は勿論のこと、その他に痣をもつ者は生まれていなかった
そうであるから、他の一族の者もこぞって痣を見にやってきた なんと、2世紀振りの「救世主」なのである 一族こぞって、祭りのごとき賑わいをみせた
「私は、何も変わってなどいないのに……皆が騒いでいる」
自分は、幼い子どもで何の力もない それなのに、皆は自分を「救世主」などと呼んで重過ぎるほどの期待をかけているのである
「私は………こんな痣なければよかった」
そんな風に打ち明けることが出来たのは、この幼馴染だけである そう、今だってじっと自分の言葉を聞いてくれる そして震える手を、そっと握ってくれた
「私は、お前とずっと一緒にいたいだけなのに」
泣きそうな声で、どうしょうもないような声を上げて自分よりも小柄な幼馴染に身体をくっつけた そんな彼に戸惑うようにしてから、それでも幼馴染は彼を片手でぎゅっと抱きしめて、もう片方の手で彼の頭を優しく撫でてくれる
「………ずっと一緒です、じゃが芋様」
「そんな呼び方……私は、そんな名前欲しくない」
自分は、そんな名前なんかではない そんなの…自分じゃない
「でも……これは、命令です」
「お前だけには、そんな名前で呼ばれたくない……お願いだから」
お願いだから、君だけは変わらないで 君だけは、私を分かって欲しい それだけは、譲れないと切実に思った
私は、皆の救世主になどなりたくはなかったけれど、君だけの救世主にはなりたかった それで十分だったのに
額に浮き出た「jyagaimo」という痣が、私を一生縛りつけるのだと思っていた しかし、この痣は1週間後唐突に消える そして、その痣が再び浮き出ることは――――誰にもなかった
Posted by yanyo at 00:27:06Comments(0)TrackBack(1) │過去

第十五話

2006-08-03
はぁはぁと肩で息をしている兄が、とてもとても心配だった…
誰よりも辛そうで、それでもいつも微笑みを絶やさない、強い人だと思う そんな兄をとても尊敬していて、その人が自分と血がつながっているということが誇らしくてしかたなかった
「お兄ちゃん」と小さな声で呼んで、自分より幾らか高い場所にある兄の手を引っ張る そうすると、兄は自分と同じ目線になるように腰を下ろして「どうした?」と優しい声をかけてくれた
この声が好きだ この声を聞くために、何度も何度も呼びかける それでも、兄は嫌な顔ひとつしないでいつだって自分にかまってくれた
物心つく前から、自分と兄は違うのだと分かっていた 父も母も、自分に目を向けてくれることはなかった 兄は、特別なのだ
それでも、兄は自分にとても優しかったし、両親よりも何かとかまってくれる兄が好きだった 淋しくない、ということでもなかったけれど…
その兄の右肩には、「yamaimo」と書かれた痣があった その痣が兄を特別にした そして、その痣が自分の大好きな兄を殺すのだと……知っていたけれど、自分には何も出来なかった 
今も、何も出来ない
Posted by yanyo at 00:15:03Comments(0)TrackBack(3) │過去
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